オープンクラスのハンドリングに思う

ホワイトウイル アジリティコンペin秋ヶ瀬ノート(愛犬ジャーナル7月号掲載記事より一部転載)


 2000年5月28日に埼玉県・秋ヶ瀬公園で行われたアジリティコンペのオープン2のハンドリングを見ていて思ったことを一つ。

 3番から6番のハードルが、コース図のように「ハの字」型に並んでいます。ほとんどのハンドラーが、「バック」コマンドによるアウトコントロールにより、コース攻略をしていたようでした。「バック」コマンド(離れろの意)はサイドチェンジ(犬との側面交替)なしに、障害を一回でクリアできる便利なコマンドです。ハンドラーが動きながら方向転回するため、ハンドラーからもギャラリーからも華麗な感じがし、魅せられやすいハンドリングなのかも知れません。しかし和食のように、もともとの素材の味を生かすことを考えると、オープンクラスでの「バック」の使いすぎには疑問もあります。
 今日のような練習の意味合いも含めたコンペでの初期のハンドリング段階では失敗を怖がったり、より速くゴールするために課題のないハンドリングで完走を目指すよりも、もっと多様にチャレンジして、多少ストレスが溜まったとしても失敗を切り抜ける感覚を積み、失敗に学ぶことも大切なのではないでしょうか。

                                                    コースデザイン:笹間幸雄

 前に福岡APEXセミナーでも紹介されていた攻略法ですが、3番から6番のコース攻略例でいけば、「バック」コマンドによる「スイッチなしでのコントロール」のほかに、4番・5番ハードル手前でA:「バックスイッチ(後方入れ替わり)−バックスイッチ」、B:「フロントスイッチ(先行入れ替わり)−フロントスイッチ」、C:「フロントスッチ−バックスイッチ」などの方法も考えられます。このクラスの犬やハンドラーが、スタート位置、送り出すタイミングや留まるポイントなどのチェックをするにはもってこいのコースではなったかと思われ、似たようなハンドリングが多かったのは残念な気がします。失敗したけど面白かったといえるような、チームの個性(スタイル)がつくられる競技経験も必要だと思います。このコースでサイドチェンジなしにハンドラーが走り抜ければ、好タイムが期待できるでしょう。しかし、オープンレベルにおける競技犬とハンドラーの位置づけを考えるならば、他の競技者とのタイムを優先するよりも、犬のスピードを引き出すスイッチなどのテクニックを挟んで、自分たちのチームのこれまでの課題と競争し、基礎的なハンドリングテクニックの習熟を、もっと図るべきではないでしょうか。
 また、「バック」コマンドによるコース攻略の場合にも、内側の手を払うように使うクロケットバック(バーを斜めに横切らせる)にすると、犬の走行ラインはショートターンとなります。コマンドのタイミングを若干遅らせて体を進行方向に入れ替え、反対側の手でハンドシグナルを出すストレートバック(バーを直角に跳ばし、走行ラインを膨らませる)にするとワイドターンとなり、6番ハードルから7番トンネルに向かう走行ラインに無理がなくなりそうです。ここで、ほとんどのハンドラーはクロケットバックを使っていたようでしたが、競技犬への負担が少ない走行ラインをつくったり、用途による使い分けも必要ではないかと思いますが・・。

 数年前にデンマークのニールセン氏が、JKCの招聘で来日したおりも、フリースタイルのハンドリング(シーケンス/連続した障害による練習)を推奨し、幾つかのシーケンスを紹介していました。シーケンスの練習(プラクティス)は、いわば型稽古のようなもので、つまらないというハンドラーもいますが、この練習は日常生活でパターン化した動きが、ハンドリングのじゃまをしないように身体感覚を磨くものでもあります。アジリティーハンドリングのための基本的な動作をオート化して、咄嗟のときにも自然に体が反応できるように、競技犬とハンドラーの運動身体能力を高めていくためのものと思います。

 スキル(スポーツ技術/そのスポーツに必要な実践的な技術)が高まっていく過程は、本来楽しいもののはずですが、最近の東京近郊のプライベートコンペを見ていると、ゲーム・ライク・プラクティス(実戦に即した練習)的な形態の練習が好まれるためか、状況判断力を高めるための反復練習が、ハンドラーと競技犬にやや不足気味のように感じます。アジリティーの「基本訓練」の前提として、呼びやフセなど一連の「準備訓練」ができていることが必要なように、ゲーム・ライク・プラクティスはスキルがあってのものであり、こうした練習でより難度の高い技を体得するためにはトレーニング(鍛錬/体の発揮するパワーを増大させること)により、ハンドラーと競技犬のパワーアップを図る必要もでてきます。アジリティーハンドリングをスポーツとして楽しむには、求める競技レベルの高さに応じたスキル、パワー、スピードが要求されるのです。
 もちろん、基礎から順に積み重ねていく練習と実戦に即した練習のどちらが、より効果的であるかは、それぞれのアスリート(運動選手)の段階があり一概に善し悪しは言えません。が、アジリティードッグの訓練方法として、正しい方向に向かっているかどうか、常にチェックしていく必要はあるかと思うのです。


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