アジリティー・ワンポイント 

泉北ドッグスクール・アジリティーセミナー(2001/2/2・3)から

サークルを大きくしたい犬のレッスン

マルコ・モーエン(スイス)、によるアジリティーセミナーや競技会が2月に行われ好評でした。




 泉北ドッグスクール&フィール・シュパースクラブ(大阪府和泉市/電話0725−92−0136)主催によるアジリティーセミナー2001が、2月2日(金)・3日(土)の2日間にわたり、泉北ドッグスクール・トレーニングフィールドにおいて開催されました。
講師はアジリティーにおけるサークル理論などをセミナーで日本に紹介し、好評を博しているマルコ・モーエン氏がスイスから5度目の来日。4日にはJKC大阪南ドッグスポーツクラブTRクラブ主催の競技会で、アジリティーのジャッジを務めた。
 セミナーではサークルの理論を下にハンドリング技術の習熟を図るシーケンスの練習を行った。
そのシーケンスの先にある障害の意識を持ち、20個のアジリティー障害攻略を念頭に置いた実践的なトレーニングが好評だった。
 

 現在、日本のアジリティー・プレーヤーのハンドリングスタイル志向として、大きく分類して三つが考えられると思います。

パワー型(先行型)ハンドリング
 フロント・スイッチを基本にコースを攻略。ハンドラーが犬より前を走って、犬を引っ張るようなハンドリングで、ハンドラーとアスリートドッグにマックスのスピードを求める傾向がある。ボディーランゲージや犬の動体視力の優れたところを応用したシンプル・イズ・ザ・ベスト的なハンドリング。

サークル型(追走型)ハンドリング
 バック・スイッチを基本にコースを攻略。サークルの理論をもとに、主に犬をハンドラーより先に走らせることで、犬のスピードを活かしていくが、トラップの危険性は先行型よりも高いとされる。ディレクション・コマンドやラインコントロールなどの考え方を活用して、コースを攻略。身体能力がそれほど高くないハンドラーにも向く、テクニック型ハンドリング。

自在型ハンドリング
 スイッチの方法にこだわらず、コースデザインによっては積極的に遠隔によるハンドリング・テクニックなども取り入れていく。アスリートドッグのハンドラーに対する感知能力の高い、どちらかといえばサークルが小さく、スピードのあるタイプのアスリートドッグ向きで、コース上のハンドラーとの位置関係は比較的自在なハンドリング・スタイル。

 この三つのスタイルは、それぞれのハンドリングに対する考え方の相違から、競技犬に出す指示のタイミングやテクニックの用い方などは相反する場合があり、アジリティー・スキルの向上に当たって、ハンドラーはスタイルの違いによるハンドリング論の差についても知っておくことが必要になってきています。
 今回のマルコ・モーエン氏によるセミナーは参加ペアがそれぞれ試走後、3つのグループに分かれて開始されました。挙手によりサークルの理論やディレクションコマンドによるハンドリングは、殆どの参加ハンドラーがビデオなどを観て理解していたことから、省略して始まりましたが、サークルなどの考え方の説明からセミナーの概要を紹介していきます。

■ディレクションコントロール
 方向性を示すゴー・オン(前へ)、ヒール(右旋回/ハンドラーを中心に犬が右回り)、ディスウェイ(左回り/ハンドラーを中心に犬が左回り)、バック(離れろの意)のディレクション・コマンド(方向性を示す号令/声符)と、ボディーランゲージ(体符)・ハンドシグナル(視符)を三位一体として、コース攻略を考えていくハンドリング方法をいいます。

■サークル
 動物には生まれ持った大きさのサークルがあります。図1の円の外を人が歩いている場合、野生動物は人の気配にきずいても何もしませんが、外側の円の内側に人が入いってくると警戒して唸ったりし、更に内側の円に入ってくると、危険を感じ攻撃的になって追い出そうとしてきます。人にも同様なサークルがあり、一般に気の強いハンドラーのサークルは大きく、女性や優しい性格の人のサークルは小さいとされます。アジリティーでは人と犬のこのサークルの違いが、色々な問題を引き起こしています。犬とハンドラーのサークルの大きさが同じくらいであれば、ハンドリングはやり易くなりますから、ハンドラーと犬のバランスが大切です。そのためサークルの大きな(サークルワイドな)犬では小さなサークルを作るアジリティー・トレーニングをし、サークルの小さな(サークルスモールな)犬は大きなサークルを作るアジリティー・トレーニングをします。アジリティーは人(プレーヤー)と犬のペアの競技ですから、このことを知っていると、コース上で走行ラインやポジションを考えるときに役立ちます。
 図2で、犬『A』はサークル内の斜線上のポジションに、常に位置しているようにプレーヤーと犬の間隔を維持し、ハンドリングしていきます。『B』のようにサークルの外に犬が出てしまうと、犬が障害を避けたりして拒絶となる可能性が高くなります。逆に『C』のように近づきすぎると、バーやレンガを落下しやすくなります。ドッグウォークの場合なら、犬が振り返ったり、飛び降りたりしてしまう可能性が高くなります。コンタクトゾーンでは必ず小さなサークルが必要になりますから、コンタクトゾーンはセーフティなところであると教えるような練習も大事です。サークルの小さな犬は、ハンドラーが側によっても犬を押し出してしまうようなことも少なく、一定以上のスピードがあるとして、サークルの大きな犬に較べ、ハンドリングはやり易いはずです。
 確実なハンドリングのためには、犬が常にサークルの斜線上にいることが大切で、斜線内に犬が入っていれば、プレーヤーはボディーランゲージで対応が可能です。サークル内で一定の間隔で対峙している時のプレーヤーと犬の感じ(フィーリング)は、清流に手を入れた時に心地よい圧を手先に感じるような負荷(月と地球の引力のような関係)のなかで動いていきます。
 サークルの大きな犬とサークルの小さな犬では、どちらが良いかは、ハンドラーと犬の資質や伎倆の段階などが複雑に絡んできますから、個々に考慮したい部分が多くあります。そのため、アジリティードッグとしてトレーニングしていく場合に、どちらが楽とは一概に言い切れません。

■サイドチェンジ

 コースでハンドリングする時に、プレーヤーと犬のポジションは普通には、レフトサイドとライトサイドの二つが考えられます。そしてコース攻略のため、このサイドをチェンジする場合に必要なテクニックとして、フロントスイッチ(犬に先行して入れ替わる)とバックスイッチ(犬の後方で入れ替わる)などの方法があります。プレーヤーのコース取りやポジションによっては、犬がオーバーランしタイムロスすることも考えられますから、どのスイッチをどのポジションで使うかは良く考えておく必要があります。
 モーエン氏はフロントスイッチによるサイドチェンジは、犬のスピードを殺すことになると考えているので、基本的に好きではありませんが、コースによっては必須な場合もあり、その時はもちろん使います。


■ワイドターン/ショートターン

 L字を組み合わせて並べたようなコースでは、犬に角度をつけて立たせると、3台のハードルが犬から見れば真っ直ぐなラインになることがあります。ストレートにハードルを跳んで、例えば、左に回るハンドリングをすると、スピードの乗った犬は3っつ目のハードルで大回り(ワイドターン)し、タイムロスが大きくなります。ハードルを直角に跳ぶようにハンドリングし、右・左と跳んで3っつ目から次の障害を鋭角に小回り(ショートターン)して進んだ方が、結果としてタイムロスは少なくなります。このターンを組み合わせて犬の適切な走行ラインを計算していくハンドリングがラインコントロールです。

■コンタクトゾーンのトレーニング
 「ライーーーー」のコマンドは、スラロームでスピードダウンしたい時や、コンタクトゾーンの上りでスピードコントロールしたい時などに使います。サークルの大きな犬はプレッシャーから、コンタクトゾーンを飛び降りてしまうことが多いですから、確実にコンタクトゾーンを踏むように、コンタクトゾーンで止まる練習を地道に繰り返すことが大切になります。コンタクトゾーンのシーケンス練習では確実に踏んだところで終わるようにします。
 サークルの小さな犬は、最後の障害(ハードルなど)を通過したなら、素早くボールを投げて犬の意欲(スピード)を引き出していきますが、行きっぱなしにしないで戻りながら、すぐに犬を呼び寄せます。ワイドサークルの犬では、紐付きボール(犬の好きなおもちゃなど)は犬をプレーヤーに引きつけるために活用し、ボールを放って犬に与えることで、犬が一人遊びをしないようにします。プレーヤーと一緒に遊んでいるんだということを強化します。


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