霧ヶ峰高原FCI−IPOジャッジセミナーから

このセミナーの内容は’97年にFCI−IPOWCH派遣選考会が行われた翌日に、
JKC主催により開催されたものの要約の一部で、愛犬ジャーナルに掲載されたものです。


防衛作業
側面護送で審査員のところへ



服従作業
斜壁登坂し物品持来




防衛作業
攻撃から禁足へ



襲ってくるヘルパーにアタック

 日本代表派遣選考競技大会が開催された長野県/霧ヶ峰高原において「FCI−IPO審査員試験&セミナー」が開催されました。ハンス・ルーデナウアー氏が服従と防衛、ベルナー・プレゥガー氏が追及の担当。午後3時から一般参加も自由なIPOセミナーが、両氏の講義により開催されました。

■審査員の注意事項について
 はじめに、犬の訓練性能を如何に的確に知るかが大切であり、全ての犬種は目的を持って作出されたスペシャリストだということです。犬の歴史を振り返って作業犬をみても、作業犬には様々な犬種があり、作業は多様化してきています。この流れはこれからも変わることなく続いて行くことでしょう。ここで作業犬という言葉の意味は何かということを、考えてみなければいけないと思います。
 例えば、IPOだけでなく狩猟犬にしても、目的を持って作出された犬はすべて作業犬といえるのではないでしょうか。決まった目的のために繁殖され、活動している犬はすべてこの中に入ってきます。特定の用途に使役されている様々な犬種がいるということは、それだけの目的があるということです。
 審査はこの目的を外さないように犬種標準書(スタンダード)により、犬種の維持・保護を行うものです。審査では平等な審査のための知識と犬の立場を考える精神が要求され、回りからの影響で自分の審査基準を曲げるような審査をしないことが重要です。つまり、審査に対する自信が大切です。
 犬の持っているある能力の100%は、犬によって違ってきます。犬も指導手も経験を積み勉強すれば、技量は高まっていく可能性があります。例えば、ある種目に適さない犬を強制的に訓練することは、繁殖目的にも外れています。ですから、(そのような兆候がないかどうか)犬の能力と指導手の能力を見極められることが審査員の重要な資質であり、これを見極めることが審査員の役目だということです。遺伝的に能力の低い犬は100%の力を発揮しても、作業完成度は低いものですし、能力を十分引き出すために経験豊富な訓練士が必要になってきます。審査では能力の低い犬を指導手の力で繁殖可のレベルに引き上げたのか、能力の高い犬を未熟な指導手が低い作業レベルにしてしまっているのか見極められなければなりません。
 テンプラメント(資質)、犬の操縦性(服従性)、犬の本来から持っている能力、犬の持つ作業意欲、犬の持つ耐久性、犬の表現力、見栄えのする犬、指導手の能力、繁殖には適するか。このような要因を様々な角度から考慮し採点しますが、減点法によるのではなく、評価のなかから点数が生れるという考え方です。
 (経験の浅い審査員では)審査員の基準にも若干の上下があり、審査員も人間ですから、個々には間違いを起こすこともありえます。このような時審査員として大切なのは、その非を率直に認める態度です。勿論、翌日目覚めてから髭を剃るのに鏡を覗き、自分の顔に自信の持てる審査を常に心がけることはいうまでもありません。
(審査の基本的な考え方としては)例えば、脚側行進を完全にこなしたから100点だ、というのではなく、どうやって脚側行進したか、どんな感じで脚側行進をしたかも採点の時に加味します。この課目の採点の注意事項として、
1.不必要な補助は許すべき、指導手の行動です。
2.脚側行進で角を曲がる時、頭を傾げたり速度を変えてしまうような無意識に行う指導手の行動は減点することができます。
3.効力のある補助/犬が実行すべき行動を視符などですることは採点すべきです。
4.必要不可欠な補助/基本姿勢で犬の腰を手で押して座らせたりすることは、その課目の範囲内で不可となります。
 ここで審査員の審査員生命にも関わってくることとして、指導手の補助を見たと100%確信できない限り、この点を講評で触れるべきではありません。

■追及について
IPOの規定(FCI国際作業犬規定)に沿って、実際に審査をする時の注意点として、IPO3の物品、コースの点数配分等ははっきりと頭に入っていることが基本です。今日の試験では、審査をしていて指導手はベテランだと感じたか、ビギナーだと感じたか質問しました。指導手の能力と犬をどう訓練してきたか、犬の作業能力とどんな性格を持つかなどを思量し、減点は全体の動きのなかで考えます。単に作業を完全に終えたというだけで、高い得点を与えるべきではありません。
 作業意欲を持った犬なのかどうかの見極めも大切です。能力のない犬がたまたま出来てしまっも、高い評価をすべきではありません。目の前の現象の背後にある状況を見極める審美眼が、審査には要求されます。それと作業において犬の能力がよく現れるポイントを押さえておくことも大切です。
 自然を相手に与えられた環境で行うスポーツですから、困難な状況で審査を受けている犬の採点は考慮すべきです。減点で到達した採点を審査員は総合評価で再考すべきでしょう。
 追及は犬が指導手を誘導していくものです。追及においては犬が確実に印跡を追っているかどうかがポイントです。動きの早い犬では印跡を犬の持っている鼻を使って進んでいること、犬が集中して作業に取り組んでいることが大切です。ですから口を開けているような犬がいれば、注意が必要です。
 スタート地点で印跡をよく捕らえることは非常に大切なことですから、ここで多少時間が掛かっても減点するようなことはありません。この作業においても、その犬の本質、犬の訓練の成果(現在の仕上がり具合)、指導手がそれぞれをどう発現しているのかを見極め採点することが要求されているということです。


ドッグスポーツ・ガイドTOPへ

TOPへ