家庭犬の基本訓練
日本訓練士養成学校特別公開講座『アメリカ式訓練法』より

アメリカ式訓練法−実技指導編
 講師はアメリカから来日したフィル・ホルシャー氏(フィールドトライアル、警察犬などのトレーニングをミネソタ州で30年以上行っている。オビディエンス、シュッツフンドのドッグスポーツにも関わり、セミナーの指導経験も多数。映画犬などタレント動物も訓練している、警察官出身。)。通訳を藤田尚美氏(AFCやJAHAほかで、しつけ・訓練など犬に関する英語通訳をつとめる)。日本訓練士養成学校主催、日本訓練士団体連合会後援。
 今回の来日は昨年暮れの1週間セミナーで、藤井聡教頭と知り合ったのが切っ掛け。「今回のセミナーで皆さんの持つトレーニング法を、代えようとは思いません。様々なトレーニングのやり方をお見せし、トレーニングのアイデアを提供したいと思っています。トレーニングでは、犬と指導手がともに楽しむ事を、念頭に置いて取り組んで下さい。まず、脚側行進などで犬を動かして見せて貰いますが、間違いは気にしないで下さい。まだ、未完成な犬や指導手による練習を見学する事で、課題を克服していく過程を学ぶ事ができます。それでは、(課題を克服し)その課目を如何に正確に上達していくかを見ていきましょう」と、セミナースタート。

実技指導犬・/5カ月のジャーマン・シェパード
 子犬をトレーニングする時は、まず、子犬に誰と一緒にいるべきか、場所づけを理解させます。この段階では子犬に、左にピッタリ付くように教えていません。指導手のそばにいると楽しい事があり、離れると悪い事があるという教え方でやっています。やり過ぎは行けませんが、白黒はハッキリ教えます。
 この犬は食べ物にたいする要求が高いので、初期の段階ではフードやおもちゃを活用して、取り組んでいきます。最初の段階で全て教えようとしないで、一つ一つ学ばせていきます。
 この犬は大勢の人の前に出てきて、初めての経験に気が散っていますから、色々な場所に連れて行く事が必要です。子犬のトレーニングでは脚側にピッタリ付くという事は大切ではありません。指導手の行くそばにいる事が肝心です。指導手は犬がそばにいたら良く褒めて、そばにいると「何か良い事があるゾ」と覚えるように教えていきます。もし、離れてしまうようなら、それは悪い事とハッキリ教えます。2、3週間すれば指導手を良く注目するようになります。

実技指導犬・/8カ月のジャーマン・シェパード
 この犬は訓練が少し入っていますが、周囲をかなり気にしています。ここでは、指導手が心から楽しむ事が大切です。脚側行進が軍隊の行進のように、キビキビし過ぎていますが、今の段階では、もっと犬と人が楽しく遊ぶ事を心掛けて行きましょう。ご褒美を出すタイミングとスタート時の歩幅をもう少し狭くして、脚側行進をもう一度お願いします。
 行進中に犬の頭が少し下がりますが、その都度コネクション/ショックを入れて矯正して下さい。また、正しい位置にあればご褒美をあげる事も忘れないようにします。この犬は脚側行進の上達の可能性が高いので、このままトレーニングを続けて下さい。犬にとって楽しい事やモノは、全て指導手からくるのであり、地面にはない事をしっかり教えます。その日のトレーニングで100%できなかったとしても、正しくやって続ける事が重要です。

実技指導犬・/10カ月のジャーマン・シェパード
 指導手が作業中、犬の目にとまるところでフードを持っていましたが、注意して下さい。今の段階では犬の頭がポジションに納まっている事が大切です。歩くスピードももっと速くしたほうが良いでしょう。
 この犬には素質があり、現段階で良い基礎訓練がされていますが、集中力が50%しかありません。指導手は常に片目は犬を見ているように取り組んで下さい。指導手がハッピーな気分で、犬の意欲を引き出していく事が大切です。集中力が足りないので、チョークチェーンなどでショックを入れ、矯正していきますが、力の強いオスではより強いショックが要求されるかも知れません。知らない人達がいても犬がリラックスできるように、他人からフードを貰ったり、触って貰う事も必要です。指導手は犬が良くできた時は、すかさず声を出して褒める事を忘れないで実行して下さい。

実技指導犬・/6カ月のエアデール・テリア
 指導手から「この犬は持来欲が弱く、強くしゃくると動かなくなってしまい、訓練のレベルまでいっていない」と、申告。
 チョークチェーンを今日初めて着けたという事ですが、チョークチェーンは直ぐ緩むのでトレーニングには、今の段階からチョークチェーンを使って練習して下さい。散歩に連れていく時に、首輪を着けて出かける事は、もちろん構いませんし、良い選択だと思います。行進から指導手が止まり停座の時ににじり下がっています。社交的な性格の犬なので、環境馴知をどんどん進めていけば大丈夫でしょう。
 トレーニングでは犬種の違いを良く理解して取り組みます。シェパードではコネクションを強く入れるとハッピーになって、良い作業をしてくれる犬がいますが、エアデールでは逆になり易いですから注意して下さい。
 今の行進中の歩き方では、良い脚側行進のためのスピードアップが難しいと思います。指導手は楽しさを全身で表現しながら、犬が追いつける速さで歩き、犬に間断なく話しかけてみましょう。トレーニングに少し時間がかかりますが、1歳になれば今ある問題は解消していきます。

実技指導犬・/1歳2カ月のゴールデン・レトリーバー
 ジャーマンチョークチェーンは犬の耳の付け根のあたりに着けます。緩すぎると効果がありません。ゴールデンは一般に活動的な犬種ですが、この犬は温和な性格なので強いチョークをしてはいけません。トレーニングで、このままジャーマンチョークチェーンを使うならば、一つ外した方が良いでしょう。耳の付け根の方に上に位置すれば、チョークは2倍の効果があります。
 今の段階での犬との歩き方は、作業が楽しくて仕方がなくなり、集中力がどんどん増していくようなやり方を心掛けて下さい。この犬は一度理解してしまえば、手間のかからないタイプです。

実技指導犬・/1歳4カ月のジャーマン・シェパード
 現在、服従は殆ど入っていませんが、持来欲はあるということですが、この犬はまだ精神的に成長途上にあります。まずは社会性を高めることが大切です。
 今の段階では、無理に脚側につけないことと、脚側行進中に紐をきつく持たないようにします。この犬にはジャーマンチョークがあっており、より良いアテンションがえられますが、あまりグイッと強く引かないで、手首でチョンチョンと軽く引くようにしてください。指導手は作業の合間にも、絶えず犬に笑い掛けて、ハッピーな気分で練習に取り組みましょう。指導手がやればやる程、犬もやってくれます。犬を楽しい状態にもっていき、訓練の時間は短く切り上げるようにして、毎日続けてください。

実技指導犬・/3歳10カ月のジャーマン・シェパード
 訓練はフードを使用し、現在の進捗状況は停座まで、と指導手が申告。
今の状態では、あまりやり過ぎてもいけません。地面の臭いを嗅ぐ問題が見られましたので、少し強いショックを入れ、この問題が解消できるか見ていきましょう。フードを口から吹き出してやるのは構いませんが、犬の口に上手く入らないで、地面に大分こぼしています。これでは追及の練習になり兼ねませんから、作業がすんで停座した犬に、ご褒美をやるときはなるべく指導手の手から、犬の口へ直接入れてください。また、アイコンタクトの方法として、はじめは指導手が犬に対して取ってください。
 これまで何人かに脚側行進を見せてもらいましたが、殆どの指導手がまるでロボットのような歩き方をしています。指導手はもっと楽しそうに歩きましょう。トレーニング自体が楽しいものだという行動を、指導手がとることで犬も変わっていきます。それから、スタートは犬が指導手に注目したら、タイミングを壊さないように素早く作業に入ります。
 指導手が犬に与えれば与える程、犬も何かをしてくれます。今の場合、それが少し足りないので、犬のアテンションを、もっと指導手に向けさせるようにします。ここでトレーニングは飽くまでもトレーニングであり、競技会ではないということを忘れないでください。

実技指導犬・/1歳4カ月のラブラドール・レトリーバー
 集中力があったので、もう一歩上の段階のトレーニングに取り組んで構いません。招呼はもっと練習しないといけない状態ですが、脚側行進でもこのトレーニングはできます。良い訓練状態の犬で、指導手と作業をすることが大好きな犬です。ジャーマンチョークチェーンを使うと、もっと動いてくれそうなので、私ならそうします。アイコンタクトも中々良い状態にありますが、もっと強化の必要があるでしょう。

実技指導犬・/6カ月のゴールデン・レトリーバー
 気分がすぐにハイになるので、今はスパイクカラーでトレーニングしていますが、それでもトレーニング中に走り回ったりしますと申告。
 オビディエンスに関して、かなり高い可能性を秘めた犬です。が、このような犬に出あうと、賢く作業意欲が有り過ぎるために、指導手が一度に色々と教え過ぎてしまうことがあります。私のところに7カ月でAKCの競技会に出られるレベルに達した犬がいましたが、1歳6カ月になった頃には、犬がこれらの作業に飽きてしまいました。こうした問題がありますから、子犬には一度に多くを教え過ぎないことと、毎日同じことを繰り返さないことが必要です。

実技指導犬・/ジャーマン・シェパード
 大変素質のあるジャーマン・シェパードで、15、6カ月で良い犬になるでしょう。余り一遍に教え過ぎないように注意してください。現段階ではジャーマンチョークチェーンは必要ありませんが、もし何らかの問題行動を解消したいのならば、使っても構いません。今は作業を楽しいと喜んでもれえれば十分です。この犬も1日に幾つも教え過ぎないよう注意して、トレーニングに励んでください。

 (99年3月24・25日(木)に開催された日本訓練士養成学校主催、日本訓練士団体連合会後援による特別公開講座『アメリカ式訓練法』より一部掲載)


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